あれは、台風が直撃していた日のことでした。
テレビは朝から「不要不急の外出は控えてください」を繰り返している。そんな夜に、家を頼んでいた工務店の営業さんから、着信がありました。
「お会いして、お話ししたいことがありまして……今夜、そちらへ向かわせてください」
いやいや、台風ですよ。外に出ない方がいいって、ずっと言われてる日ですよ。
でも、すぐにピンと来ました。これは電話じゃ済まされない話なんだ、と。わざわざこの嵐の中を来るくらいなんだから、ただ事じゃない。……そりゃ、そうですよね。
何の話だったのか。それを書く前に、そもそも私たちがどうやってこの家にたどり着いたのか、最初から振り返らせてください。
はじまりは、BESSの家への一目惚れ
家を考え始めた頃、最初に心を掴まれたのがBESSの家でした。あの無骨であたたかい雰囲気が本当に好みで、展示場では完全に舞い上がっていました。
ただ、調べていくうちに気づきます。ああいう家は、定期的なメンテナンス——塗装などの手入れ——が前提なんだと。
マメな人には、その手入れの時間すら愛おしいんだと思います。でも正直、我が家はズボラ。「この手間を何年も続けられるか?」と自分に問いかけたら、答えはノーでした。
デザインは大好きだったけど、暮らし方として続かない。だから、泣く泣く見送りました。
(※BESSが悪いという話ではまったくありません。手入れを楽しめる人には、これ以上ない家だと思います。あくまで我が家には合わなかった、という話です)
後日、一通のメールが届く
ここで話が終わらなかったのが、面白いところで。
BESSの展示場で担当してくれた営業さんから、後日「こんな土地が出ました。BESSの家を建てませんか?」という営業のメールが届いたんです。
BESSを建てるつもりはもうなかったのですが、メールで知ったその土地そのものは「いいな」と思いました。結果的に、この営業メールがきっかけで、後に購入することになる土地の存在を知れたわけです。縁のはじまりは、思わぬところに転がっているものですね。
この頃の私は、とにかく色々な工務店を見て回っていました。今になって思うのは、あの「とにかく動いていた」ことこそが、良い土地にも良い縁にもつながった、ということ。家づくりは、足を使った人にチャンスが回ってくる気がします。
「この土地に、建てられますか?」「建てられます」
その土地が気に入った私は、今度は自分から、別の工務店の企画住宅(あらかじめ間取りが決まったパッケージ型の家)を、その土地に建てられないかと考えました。
なので、営業さんにはっきり確認しました。
「この土地に、この企画住宅、建てられますか?」
返ってきた答えは、「建てられます」。
その言葉を信じて、私たちは土地を購入しました。人生で一番大きな買い物の、ひとつ目のボタンを押した瞬間でした。
そして、台風の夜
話は冒頭に戻ります。
土地を買ったあと、あの台風の夜に訪ねてきた営業さんが、頭を下げて切り出したのは——
「北側斜線の規制を見落としていまして。このままでは、あの企画住宅は建てられません」
……正直、最初に思ったのは「いやいや、それはやばいでしょ」でした。建てられるって言うから、この土地を買ったのに。土地はもう、買っている。頭が真っ白になりました。
(北側斜線制限は、北側の隣地の日当たりを守るために、建物の高さや形に制限がかかるルールです。土地の用途地域によって効いてきます。正直、素人にはなかなか気づけない部分でした)
詰んだ——と思ったら、神提案
落ち込む私たちに、営業さんはこう提案してくれました。
「企画住宅の形を、この土地に合わせて崩して建て直しましょう」
普通、企画住宅を崩して設計を変えると、別途けっこうな追加費用がかかります。でも今回は、見落としがあったぶん、その費用はすべて工務店側が負担してくれました。
トラブルの責任を、ちゃんと自分たちで引き受けてくれた。ここは、本当にありがたかったです。
崩して建てたら、むしろ理想の家になった
そして——ここが一番伝えたいところなんですが。
形を崩した結果、間取りも外観も、当初の企画住宅よりずっと良くなりました。
中でも一番のお気に入りが、屋根付きの大型ウッドデッキ。屋根があるから雨の日でも濡れずに使えて、今ではすっかり我が家の特等席です。当初の企画プランには無かった空間で、あのトラブルが無ければ、きっと生まれていませんでした。
ピンチが、結果的に一番好きな場所を連れてきてくれた。人生、わからないものです。
正直に言うと、営業さんは「頼りない」人でもあった
誤解されたくないので書いておきます。この営業さん、人柄は本当に良い人でした。台風の夜に、頭を下げに来てくれる人ですから。
ただ、仕事の正確さという点では、少し頼りないところもありました。「やりません」と言ったはずの項目が見積もりに残っていたり、私が気づいて指摘することが、何度かあって。
責めたいわけじゃありません。むしろ、ここから大事なことを学びました。
見積もりや図面は、施主が自分でも必ず一通り目を通すこと。プロにおまかせ、で安心しきらない。自分の家のことは、自分でも確認する。当たり前のようで、つい人任せにしてしまう部分です。
建築中、私が必ずやっていたこと
工事が始まってから、現場を見に行くときは、必ず大工さんへの差し入れを持っていきました。
飲み物は、コーヒーとお茶を両方。その日の気分で選べるように。お菓子も、煎餅系とチョコ系の両方を用意しました。しょっぱい派も甘い派もいますから、どっちでも喜んでもらえるように。
「気を使わないでください」と言われても、これだけは絶対にやると決めていました。
理由はシンプルで、相手も人間だからです。自分の家を、汗をかいて建ててくれている人たち。気持ちよく仕事をしてもらえるなら、これくらいは当たり前だと思っています。
家づくりで、一番大事だと思ったこと
遠回りだらけの家づくりでした。でも、終わってみて確信していることが、ふたつあります。
ひとつは、自分の足で動くこと。何社も見て回ったからこそ、良い土地にも、最後は神提案をくれる工務店にも出会えました。
もうひとつは、関わる人に誠実に向き合うこと。差し入れも、見積もりの確認も、根っこは同じです。
この家は、トラブルから始まって、結果オーライで終わりました。でも、それは運だけじゃなく、動いたから引き寄せた結果だと思っています。
最後にひとつだけ。
もし私がもう一度家づくりをするなら——いきなり1社に絞らず、まず複数社へまとめて資料請求して、間取りプランを並べて見比べるところから始めます。何社も足で回るのは、正直しんどい。今はそれを一気に短縮できる方法があるので、最初の入口だけは賢く使うのがいいと思います。


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